なないろ通信STAFF BLOG
自彊術と呼吸法 身体を動かすことの大切さ
2025.02.07趣味と実益を兼ねてもう10年以上になるのでしょうか、自彊術(じきょうじゅつ)という健康体操を毎朝やっています。平日は朝6時くらいから始めます。この体操自体は慣れれば(あくまで慣れればですが)15分で終了します。が終わるとハーハー息が切れるくらいの運動量です。今はこれだけでは物足りないのでヨガなどを加えてほぼ25分やっています。仕事柄ずっと座りっぱなしが多いのですが、中学生の時以来の腰痛は最近出ていません。絶好調です。
自彊術は大正5年に香川県出身の中井房五郎という治療家が考案しました。31の動作をかけ声をかけながら全身を動かす健康体操です。昭和初期に大ブームを起こしたらしいのですが、一時ほとんど廃れていました。昭和40年代後半に近藤芳朗医学博士(武見太郎日本医師会長の時代に吉田肉腫で有名な吉田富三博士らと組んで日本医師会長にも立候補しています)が再興します。病弱だった奥様が近所のおじいさんに教えてもらった怪しい体操を続けるうちにどんどん元気になるのを目の当たりにして興味を持ち、また、近藤先生ご自身も糖尿病を発症してご自身で始められ、その効果を医学的に追求し紹介しました。ご自身の医院も改装して沢山の人に教えていたそうです。「自彊術の医学」という309ページにおよぶ書籍を平成9年に出版されています。心身医学を日本で始められた九州大学医学部名誉教授の池見酉次郎先生もご自身が自彊術を熱心に実施され自彊術の本を出版されています。
私がもう一つ続けているのが、西野皓三氏(2021年逝去)の始めた西野流呼吸法です。大阪市立大学医学部を中退して宝塚歌劇団のバレエの振付師として活躍し、その後西野バレエ団を創り、由美かおるや金井克子などのスターを育て、関西の芸能界の長者番付の常連となりました。次は合気道や中国拳法の師範となり西野流呼吸法を創始したという極めて多才な方です。(平成19年第47回日本呼吸器学会の学術講演もされています)。私は徳島在住の時に大阪の帝塚山にあったスタジオに50回以上通っています。(暇だったのですね)その時に不思議な経験をしています。2人が向かい合って片方の足を前に出しそれと同じ側の腕を軽く曲げて前に出し相手の手首と触れるか触れないかくらいに合わせ、お互いに気を出すという対気(たいき)と呼ばれる練習があります。先生と手合わせするとこっちの身体がぶっ飛ばされるのです。(危険防止のためバレエスタジオの壁は厚いマットで囲まれていました)由美かおるさんも東京から来られて指導陣の1人でした。何回か手合わせをしましたがぶっ飛ばされました。眼をとじたりしてもぶっ飛ばされました。何か身体の中にぐぐっと力が入ってくるかんじはあるのですがよく分かりません。現在の物理学では説明がつきませんが、私はそれ以上探求する頭もないのでこういうこともあるのだろうとそのままです。ただ飛ばされることが大事ではなくて、身体を動かしながら呼吸法をすることで元気になる、これがいいのではないでしょうか。
話は変わりますがアンデシュ・ハンセンというスウェーデンの精神科医をご存じでしょうか。日本では「スマホ脳」(新潮社)が売れて有名になったようです。その先生の本に「運動脳」(サンマーク出版)というのがあります。人口1,000万人のスウェーデンで67万部売れたと言いますから大ベストセラーです。運動を継続することで学力、集中力、記憶力、意欲などが全部アップするというのです。週に最低3回、30分以上で心拍数が少し上がるくらい、1ヶ月以上定期的に運動することで効果が続くそうです。ストレス耐性もつくと言っています。
現代社会は仕事ではパソコンやタブレットと長い時間向き合い、プライベートではスマホを見ている時間が長くなっています。脳と身体のバランスが完全に崩れています。これが人間の成長に良いとは誰も思っていません。週末に少し運動するだけでは足りないようです。世の中に身体技法は山ほどあります。週に最低3回以上、30分以上の体操を心拍数が少し上がる程度の運動をしましょう。
私は精神科医なので日頃の診療の中で、患者さんに適度な運動を勧めることも多いのですが、生活の中で続けて運動が出来る人は少ないです。「時間があれば運動します」という意識ではどうもだめなようです。「仕事や生活を元気に続けるために、意識して毎日(週3日でいい)の生活に運動する時間を30分とる」というくらいでないと本当の改善は期待できません。
例が極端かもしれませんが幕末の思想家吉田松陰は、記録によると見聞を広めるため一日に何十キロも歩いていたそうです。当時は歩くしかなかったわけで、いわば運動と頭の思考バランスがとれていたのではないでしょうか。私たちは現代社会で生き残っていくためにはもっと身体を動かすことの大切さに意識を向ける必要があると思います。
松山市医師会報
令和7年春寒号より